楓の風の研修|高齢者虐待防止研修

月次研修「高齢者虐待防止と身体的拘束の防止」を実施しました

気づくこと、支えること、そして一人で抱え込まないこと

今回の研修では、高齢者虐待に関する全国的な動向を確認したうえで、この1年間に楓の風で報告された事例を振り返りました。後半では、在宅療養の中でも起こり得る身体的拘束について、その影響や考え方、実際の対応事例を共有しました。

高齢者虐待も身体的拘束も、決して「一部の特殊なケース」だけの話ではありません。

訪問先で感じるちょっとした違和感。
介護者の疲れた表情。
利用者様の身体に見つけた小さな傷。
安全のために行っているつもりの行動制限。

そうした日々の場面から、私たちが何に気づき、どう関係者へつないでいくかを考える研修となりました。


高齢者虐待は、身近な場所でも起こり得る

研修の前半では、厚生労働省が公表している高齢者虐待の状況について確認しました。

施設従事者による虐待、家庭内で養護者によって起きる虐待ともに、相談・通報件数は増加傾向にあります。

家庭内で起きる虐待では、身体的虐待が最も多く、心理的虐待、介護放棄、経済的虐待なども報告されています。

背景として挙げられるのが、認知症の進行や介護疲れ、介護者の知識不足、経済的な問題、家族関係、社会的な孤立などです。

一つの原因だけで起きるのではなく、さまざまな事情が重なった末に、介護する側も追い詰められていくことがあります。


「虐待する人=悪い人」だけでは見えないもの

今回の研修で特に大切にされたのは、虐待する側だけを責める視点ではありませんでした。

介護を続ける中で眠れなくなる。
目を離せない状態が続く。
相談できる相手がいない。
「自分がやらなければ」と一人で抱え込む。

そうした状況が続けば、どれだけ頑張っている人でも限界を迎えることがあります。

虐待は許されるものではありません。

一方で、再発を防ぐためには、虐待を受けている方だけでなく、介護している家族がどこまで疲弊しているのかにも目を向ける必要があります。

介護者が眠れていない。
感情を抑えられなくなっている。
本人へつらく当たる場面が増えている。

こうした変化を「介護の限界が近づいているサイン」として捉え、早めに支援につなげることも大切です。


この1年間に、楓の風でも複数の報告がありました

研修では、昨年8月から今年7月までに楓の風で報告された、高齢者虐待やその疑いに関する事例も共有されました。

介護放棄が疑われたケース。
家族から身体的な暴力を受けたという訴えがあったケース。
高齢者本人と家族双方に事情があり、行政や警察を含めて地域で見守りを続けているケース。
金銭搾取が疑われ、行政が介入しているケース。

中には、調査の結果、虐待とは判断されなかったものもありました。

それでも、「虐待ではなかったから問題なし」で終わるわけではありません。

実際には、家族間の意思疎通がうまくいっていなかったり、介護者が疲弊していたり、医療者と家族との関係が悪化していたりと、支援が必要な背景が見つかることがあります。

疑いの段階でも一度立ち止まり、関係者で状況を確認することには意味があります。


訪問看護だから気づける、小さなサイン

訪問看護は、利用者様の生活の場に継続して関わる仕事です。

そのため、日常の中にある変化を見つけやすい立場でもあります。

以前にはなかったあざがある。
家族が近づくと身を守るような姿勢を取る。
急激に痩せてきている。
食事や服薬が十分にできていない。
介護者の表情や言葉に余裕がなくなってきた。

こうした変化を見逃さず、「何かおかしい」と感じられることが最初の一歩です。

一方で、訪問看護ができることは、虐待の有無を一人で判断することではありません。

担当ケアマネジャーや主治医、地域包括支援センター、行政などへ情報をつなぎ、必要な支援を一緒に考えていくことが役割になります。


発見したスタッフ一人に背負わせない

虐待が疑われる場面に出会った時、まず確認するのは利用者様の安全です。

外傷や全身状態を確認し、生命や身体に差し迫った危険があれば、救急搬送や一時的な分離などを含めた対応が必要になります。

そのうえで、担当のケアマネジャーや主治医、地域包括支援センターなどへ相談します。

楓の風では、社内の高齢者虐待防止マニュアルに沿って、所長や高齢者虐待防止委員長へ報告し、必要な内容をワークフローから共有する仕組みを整えています。

大切なのは、発見したスタッフ一人に判断や対応を背負わせないことです。

会社として状況を共有し、外部機関とも連携しながら対応していきます。


身体的拘束は「安全のため」だけで判断しない

研修の後半では、身体的拘束について学びました。

身体的拘束を行うと、関節拘縮や筋力低下、廃用症候群、褥瘡などの身体的な影響だけでなく、不安、怒り、屈辱、諦めといった精神的な苦痛につながることがあります。

また、拘束から逃れようとして転落したり、姿勢によっては窒息など別の事故につながったりする可能性もあります。

一度拘束を始めると、活動性の低下や認知症症状の悪化によって、さらに転倒リスクが高まり、より強い拘束が必要になるという悪循環に陥ることがあります。

「安全のためだから仕方がない」と始める前に、別の方法がないかを丁寧に考えることが必要です。


その行動には、理由があるかもしれない

在宅で身体拘束が検討される理由には、転倒や転落、点滴や胃ろうなどのチューブ抜去、おむつを外してしまうことなどがあります。

しかし、研修では「その行動自体を止める前に、なぜ起きているのかを考えること」が共有されました。

眠れているか。
食事は取れているか。
排泄はできているか。
身体を清潔に保てているか。
日中に活動できているか。

たとえば落ち着かない様子が、便秘や尿閉による不快感から起きている可能性もあります。

基本的な生活上のニーズが満たされることで、落ち着きを取り戻す方もいます。

身体を制限する前に、まず原因を探す。

これは在宅だからこそ大切にしたい視点です。


どうしても必要な場合には「3つの条件」を確認する

身体的拘束は、緊急やむを得ない場合を除き、原則として行わないことが基本です。

どうしても必要な場合には、次の3つをすべて満たしているかを関係者で確認します。

  • 切迫性:本人または周囲の生命・身体が危険にさらされる可能性が非常に高い
  • 非代替性:身体拘束以外に代わる方法がない
  • 一時性:拘束が一時的なものである

この3条件について、本人や家族、主治医、ケアマネジャーなど関係者で話し合い、その検討内容を記録に残します。

身体拘束を行うこと自体ではなく、「本当に他に方法がないのか」を繰り返し問い直すことが求められます。


実際の事例から考える身体拘束

この1年間に楓の風で報告された身体的拘束の事例も共有されました。

転落リスクの高い利用者様に4点柵を使用したケースでは、介護者が不在となる夜間などに限定して使用し、介護者がいる時には外す運用としていました。

終末期でせん妄が出現した方については、家族、訪問診療、訪問看護、訪問介護、ケアマネジャーでサービス担当者会議を行い、症状が落ち着くまでの一時的な対応として検討されていました。

また、認知症が進行し、おむついじりが頻回となった方では、環境調整やおむつの見直し、薬物調整、介護サービスの活用などを試したうえで、家族の心身の疲弊も踏まえて、つなぎ服の使用が検討されています。

大切なのは、どのケースでも「拘束するか、しないか」だけで終わらせていないことです。

なぜ必要なのか。
代替策を試したか。
いつまで続けるのか。
状態が変われば解除できないか。

その都度、関係者で考え直していくことが必要です。


利用者様だけでなく、家族も支える

高齢者虐待防止と身体的拘束防止に共通していたのが、家族への支援です。

在宅では、看護師が24時間そばにいるわけではありません。

日々の介護を担う家族が疲れ切ってしまえば、利用者様の安全を守ることも難しくなります。

ショートステイなどを利用して介護者が休める時間をつくる。
認知症の症状について説明する。
「困った時には相談してよい」と伝える。
家族だけでは抱えられない段階に来ていることを一緒に確認する。

こうした支援も訪問看護の大切な役割です。


「気づいた人」が、一人で解決しなくていい

今回の月次研修を通して改めて確認したのは、高齢者虐待も身体的拘束も、一人の判断だけで対応するものではないということです。

小さな違和感に気づく。
利用者様とご家族の両方を見る。
関係者へ相談する。
必要な支援につなぐ。
検討したことを記録に残す。

その積み重ねによって、利用者様の尊厳と安全を守っていきます。

そして、介護するご家族や、異変に気づいたスタッフ自身も、一人で抱え込まない。

楓の風では、日々の訪問で感じた小さな違和感も組織で共有し、利用者様とご家族の双方を支えられるよう、これからも学びと体制づくりを続けていきます。