「セルフネグレクト」をテーマにした勉強会を開催しました
― 支援を拒む方に、地域でどう関わるかを考える時間 ―
6月15日、板橋区立文化会館にて合同勉強会を開催しました。
今回のテーマは、セルフネグレクトです。
医療法人社団 心清会・心翠会の蒲生裕司先生をお招きし、地域の医療・福祉関係者の皆さまとともに、支援を拒む方への関わり方について学びました。
当日は、第一線で地域支援に携わる医療・福祉関係者52名にご参加いただきました。
講義とグループワークを通して、日々の現場で感じている難しさや工夫を共有する時間となりました。

「支援を拒む人」は、支援を必要としていない人なのか
セルフネグレクトとは、健康・安全・生活を大きく損なう状態にありながら、本人がその状態を放置していたり、支援を受けようとしなかったりする状態を指します。
たとえば、必要な医療や介護サービスを拒否する。
怪我や病気があっても受診につながらない。
入浴や着替えができず、不衛生な環境のまま生活している。
周囲から見ると明らかに支援が必要に見えても、本人は「困っていない」「放っておいてほしい」と話すことがあります。
こうした場面は、地域支援の現場で決して珍しいものではありません。
今回の講義で印象的だったのは、拒否を単なる「性格」や「頑固さ」と捉えない視点です。
拒否の背景には、あきらめ、無力感、自己否定、不信感、プライド、生活を他人に奪われることへの不安、喪失感や孤独など、複数の心理が重なっていることがあります。
表面に出ている言葉だけで判断せず、その奥にある思いを理解しようとすること。
そこから支援は始まるのだと感じました。
事例をもとに、多職種で考える
講義の後半では、セルフネグレクトが疑われる独居高齢者の事例をもとに、グループワークを行いました。
事例は、78歳の独居男性。
妻を亡くして以降、地域との交流が減り、近隣から「姿を見ない」「ゴミ出しが止まっている」「異臭がする」といった相談が地域包括支援センターへ入ったケースです。
本人は訪問に対して、「別に困っていない」「放っておいてくれ」「人の世話にはなりたくない」「施設には入りたくない」と話しており、支援には拒否的です。
一方で、玄関先には郵便物やコンビニ弁当の容器がたまり、受診中断、転倒歴、生活環境の悪化、近隣との関係、家族関係など、複数のリスクが重なっていました。
このような「本人は困っていないと言うけれど、周囲から見ると支援が必要」という状況に対して、どのように関係を作り、どの順番で支援につなげるか。
各グループでは、現場経験に基づいた具体的な意見が交わされました。

最初に必要なのは、サービス導入ではなく関係づくり
多くのグループで共通していたのは、最初からサービス導入を急がないという視点でした。
本人が拒否している時に、支援者側の正しさを前面に出しても、関係は深まりにくくなります。
まずは玄関先で短く話す。天気や近隣の話題から入る。郵便物を渡すことをきっかけに声をかける。本人の好きなことや、これまでの仕事の話を聞く。
たとえば、元タクシードライバーであれば、仕事の話題が入口になるかもしれません。
「困っているでしょう」と迫るのではなく、「少し気にかけています」という関わりを重ねること。
その積み重ねが、やがて「この人なら話してもいいかもしれない」という関係につながっていきます。
「困っていない」の背景を考える
グループワークでは、「困っていない」という言葉をそのまま受け取らないことも話し合われました。
本人は本当に困っていないと感じているのかもしれません。
あるいは、困っていることを言葉にする力が弱くなっているのかもしれません。
支援を受けることで、施設に入れられてしまうのではないかと不安に感じている可能性もあります。
人の世話になりたくないという気持ちは、本人にとって最後に残された尊厳なのかもしれません。
だからこそ、拒否の理由を丁寧に見立てる必要があります。
怒鳴られても、すぐに関係が切れたと考えない。
嫌がることは無理にしない。
それでも、同じ人が同じように関わり続ける。
こうした地道な関わりが、支援拒否のある方との関係づくりでは大切になります。
生活のサインから状態を見立てる
今回の事例では、生活上のサインに注目する意見も多く出されました。
郵便物がたまっているか。
ゴミ出しが止まっていないか。
夜間に電気がついているか。
コンビニ弁当の容器が増えていないか。
家の中のにおいや清潔状態はどうか。
足を引きずっていないか。
食事や服薬、睡眠はどうなっているか。
こうした小さな変化は、本人が「困っていない」と話していても、支援の必要性を考える重要な手がかりになります。
在宅支援では、言葉だけではなく、生活全体を見ることが求められます。
そして、その情報は一人の支援者だけでは集めきれません。
地域包括支援センター、ケアマネジャー、訪問看護、薬局、民生委員、地域住民、コンビニ店員など、本人の生活圏にいる人たちの気づきが大切になります。
多職種で支えるということ
今回のグループワークでは、多職種連携の重要性も改めて共有されました。
医療につながっていない方を、どのように受診へつなげるか。
清潔面や食事、服薬、転倒リスクをどのように見ていくか。
本人が信頼している医師や地域の関係者はいるのか。
家族や親族との関係はどうなっているのか。
サービス利用の費用負担は、本人の不安になっていないか。
こうした問いは、一つの職種だけでは整理しきれません。
看護師には看護師の視点があります。
ケアマネジャーには生活全体を組み立てる視点があります。
薬局には服薬状況や日常的な接点があります。
地域包括支援センターや民生委員には、地域での見守りの視点があります。
それぞれの視点を持ち寄ることで、本人をより立体的に理解することができます。
「何もしない」のではなく、「関わり続ける」
セルフネグレクトの支援では、すぐに結果が出るとは限りません。
初回訪問で受け入れてもらえることばかりではありません。
何度訪ねても、玄関先で断られることもあります。
それでも、今回の講義で共有された大切なメッセージがあります。
支援を拒む人は、支援を必要としていない人ではない。
むしろ、誰よりも丁寧な関わりを必要としている人である。
何かを変えようとする前に、まず会いに行く。
説得しすぎない。
本人の困りごとから入る。
本人の言葉をそのまま返す。
小さな選択肢を渡す。
同じ人が同じように関わり続ける。
その人の力を見つけて言葉にする。
こうした一つひとつの関わりが、支援の入口になっていきます。
地域で学び合うことの意味
今回の勉強会では、講義だけでなく、グループワークを通して多くの意見が交わされました。
各グループからは、支援拒否の背景、本人との距離の取り方、生活サインの見方、医療へのつなぎ方、多職種連携の工夫など、現場で積み重ねてきた実践が共有されました。
参加者同士で話し合う中で、「自分たちだけが悩んでいるわけではない」「別の職種には、違う見え方がある」「すぐに解決できなくても、関わり方には工夫がある」という気づきが生まれていたように感じます。
支援が難しい方ほど、一人の専門職や一つの事業所だけで抱え込まないことが大切です。
地域の中で顔が見える関係をつくり、相談し合える土台を持つこと。
それが、支援を必要としている方に届く力になります。

楓の風高島平として、地域とともにできること
楓の風高島平では、これまでも在宅療養を支える地域の一員として、医療・介護・福祉の皆さまと連携しながら支援を行ってきました。
今回の勉強会を通して、改めて感じたのは、在宅支援には「正解を一つに決める」難しさがあるということです。
本人の思い。
家族の状況。
生活環境。
医療的なリスク。
地域との関係。
それらを丁寧に見ながら、今できる関わりを一つずつ考えていく。
その積み重ねが、在宅で暮らす方を支える力になります。
これからも楓の風高島平では、地域の皆さまとともに、支援拒否や孤立といった難しいテーマにも向き合いながら、在宅療養を支える取り組みを続けてまいります。
ご参加いただいた皆さま、貴重なご意見を共有いただき、ありがとうございました。

