楓の風の研修|症状緩和ケア(呼吸困難・悪心嘔吐)緩和ケア研修

2026.03.24


楓の風では、月次研修の一環として、症状緩和に焦点を当てた緩和ケア研修を継続して実施しています。
今回のテーマは、終末期に頻度が高く、かつ在宅での対応力が問われる 「呼吸困難」と「悪心嘔吐」。症状の捉え方、アセスメントの視点、薬物療法と非薬物療法の組み立て、そして在宅での薬剤管理の難しさまで、現場に直結する内容を学びました。


緩和ケアは「早期から」の介入が症状軽減につながる

研修冒頭では、標準治療単独よりも緩和ケアを併用した方が、症状が軽減されることが研究でも示されている点が共有されました。
また、エンドオブライフでは死期が近づくにつれて症状が強くなりやすく、概ね4〜2週間前あたりから変化が出やすいこと、そして呼吸困難はその中でも終末期に向けて強まりやすい症状であることがポイントとして挙げられました。


呼吸困難|「SpO2が良い=苦しくない」ではない

呼吸困難の定義と頻度

呼吸困難は「呼吸時の不快な感覚」という主観的症状で、がん患者さんでは発生頻度が高く、肺がんでは特に高頻度でみられるとされます。

重要ポイント:呼吸困難と呼吸不全は一致しない

研修で強調されていたのは、呼吸困難は呼吸不全(数値)と必ずしも一致しないという点です。
「SpO2が高いから大丈夫」と言ってしまうと、本人の“苦しい”が置き去りになる――この場面を具体例として取り上げ、言葉がけやケアの組み立てを見直す必要性が示されました。

呼吸困難の原因は多因子

呼吸機能の問題だけでなく、全身衰弱・貧血・水分バランス・発熱、そして不安や恐怖、環境要因(狭い部屋・高い室温など)も呼吸困難の引き金になりうる、という整理でした。


呼吸困難のアセスメント|「点数化+生活文脈」

研修では、呼吸困難を客観的に追うために、痛みと同様につらさを点数化し、NRSなどを用いることが紹介されました。
同時に、以下の観点をセットで確認することが重要だと整理されています。

  • 症状の頻度・持続時間・出現時間帯
  • 体位、呼吸回数・リズム・深さ(安静時/労作時/睡眠時)
  • 発熱などのバイタル、意識状態の変化
  • 日常生活で増悪する要因/本人が工夫している行動
  • 不安・恐怖など精神状態の影響
  • 予後や病状(チームで方針統一に必要)
  • 使っている薬剤の効果と副作用評価
  • 本人・家族の“息が止まるのでは”という恐怖の有無

さらに、呼吸困難の“質”を捉えるツールとして、キャンサーデスプニアスケール(呼吸努⼒感/呼吸不快感/呼吸不安感の3分類)の考え方が紹介され、症状を言語化して共有する大切さが示されました。


呼吸困難の治療とケア|薬だけでなく「環境・呼吸・安心」

原因治療+対症療法

原因が明らかで治療可能なら原因治療、難しい場合は対症療法へ。酸素療法はSpO2だけにこだわらず、乾燥や拘束感などのデメリットも踏まえ、総合判断で使う点が強調されました。

薬物療法の要点(呼吸困難)

呼吸困難に対する薬物療法の第一選択としてモルヒネが挙げられ、呼吸不全そのものを治すのではなく「主観的な苦しさ」を緩和する、という説明でした。
また、ステロイドが有効となりうる病態(例:がん性リンパ管症、上大静脈症候群、気管狭窄など)や、抗不安薬併用の考え方(眠気・ふらつき→転倒や誤嚥に注意)も整理されました。

※研修内では「呼吸回数が下がる=呼吸抑制ではない」という誤解の修正が丁寧に扱われ、モルヒネの理解不足が不安を増やすリスクにも触れられました。

非薬物療法の具体策(在宅で効く“手数”)

研修の後半では、明日から使える具体策が豊富に共有されました。

  • 送風療法:扇風機やうちわで顔に風を送る(5分介入で有効性報告)
  • 環境調整:室温20〜23℃、湿度55〜70%が目安、動きが少なく済む導線づくり
  • 体位の工夫:前かがみ(キャッチアップ)やクッションで肺活量を確保しやすくする
  • 便秘予防:いきみ(怒責)が呼吸困難を増強するため、排便コントロールが重要
  • 口腔ケア:頻呼吸・喀痰で乾燥/汚染が起こりやすい
  • 不安への対応:傾聴と安心できる声かけ、数値と聴診だけで終わらせない

「薬は数分で効き始める」「じわじわ効いてくる」といった伝え方の工夫、呼吸に合わせて背中をさすって落ち着きを促す方法、足底の指圧など、本人と家族が一緒に取り組めるケアも紹介されました。


事例共有|在宅の薬剤管理は“仕組み”が鍵になる

研修では、呼吸困難で難渋した事例が共有されました。肺がん終末期でレスキュー回数が増え、結果としてオピオイド過量やステロイドの影響によるせん妄が疑われ、家族への暴言・暴力が出現。緩和ケア病棟で薬剤調整後、在宅へ戻り穏やかに過ごせた、という経過です。

ここで強調されていたのは、在宅では病院と違い、本人・家族が薬剤管理の主体になりやすいこと。だからこそ「飲みたいだけ飲む」状況を避けるための仕組みが必要で、フローチャートを作成し、本人・家族・スタッフで共有して運用した点が重要な学びとして示されました。

フローチャートの最初に置いたのは「深呼吸」。すぐ薬に頼らず非薬物療法を挟むことで、結果的に薬剤内服に至らないこともあった、という実感も共有されています。


呼吸のリハビリ|“動作に呼吸を合わせる”を日常に

研修では、がん患者さんにも応用できる呼吸リハとして、

  • 動作をゆっくり行う、手すりなどの補助具を使う
  • 動作時の口すぼめ呼吸
  • 階段昇降を呼吸リズムに合わせる工夫
  • 排便時に息を止めず、吐きながらいきむ(口すぼめ呼吸)
  • 腹式呼吸の練習(元気な時からの練習が重要)

などが紹介されました。


悪心嘔吐|原因分類で「効く制吐剤」が変わる

後半は悪心嘔吐。定義と頻度、そしてQOLへの影響が整理されました。

アセスメントの視点

治療内容・薬剤、原因/誘因、頻度・程度・時間帯、吐物の性状(出血、便臭など)、制吐剤の使用と効果、生活への影響、食事/飲水との関連、排便(特に便秘)、随伴症状、本人・家族の思いまで確認する、という実務的な整理でした。

4分類(中枢神経系/前庭系/末梢性/CTZ)

悪心嘔吐は原因を4つに分類して捉え、どこが主因かで薬剤選択が変わる、というフレームが提示されました。進行がんでは原因が複数重なることも念頭に置く点が重要です。

具体例として、頭蓋内圧亢進(朝方に強いことがある)や、乗り物酔い・メニエール病、便秘や内容物停滞、薬物や高カルシウム血症などが挙げられています。

薬剤選択の注意点(現場で事故りやすいところ)

特に強調されていたのは、完全な腸閉塞では消化管運動促進薬(例:プリンペラン等)が禁忌となりうる点です。腸閉塞時は分泌抑制(例:オクトレオチド等)など別アプローチが必要となることが示されました。


悪心嘔吐のケア|「誘因除去+安心+便秘対策」

非薬物療法としては、

  • 誘発因子の除去
  • 安楽な体位の工夫(例:病態により腹臥位が楽になることがある)
  • 生活導線の整備(洗面器、飲料水、ゴミ箱、家族を呼ぶ手段など)
  • 口腔ケア(通常の歯磨きが誘発になる場合は冷水やレモン水で工夫)
  • 排便コントロール(便秘が悪心嘔吐を増やす)
  • 食事の工夫(温かい食品の匂いが誘発になる場合は冷ます等)
  • そばにいて背中をさする、ゆっくり声かけする心理的サポート

などが整理されました。


研修を通して|「症状」ではなく「その人の安心」をつくる

呼吸困難も悪心嘔吐も、患者さんにとっては“恐怖”や“見通しのなさ”と結びつきやすい症状です。
今回の研修では、薬物療法の知識だけでなく、送風・呼吸・姿勢・環境・便秘予防・声かけといった非薬物療法を組み合わせ、さらに在宅ならではの薬剤管理を「仕組み」で支えることの重要性を、具体例を通じて学ぶことができました。

楓の風では、こうした学びを日々の訪問に還元し、ご利用者様・ご家族が「その人らしく」過ごせる時間を支えていきます。